Heart Failure/Cardiomyopathy心不全・心筋症

Heart Failure/Cardiomyopathy
順天堂大学医学部循環器内科学講座 准教授

順天堂大学医学部循環器内科学講座 准教授

末永 祐哉YUYA MATSUE

多施設臨床研究をリードし、心不全分野のプレシジョン・メディシン実装に挑む

超高齢者社会を迎え、心不全の患者数が急増している。心不全グループでは早い段階から多施設臨床研究の重要性に着目して研究をデザインしてきた末永医師を中心に、心不全分野における多くの先進的な臨床研究が進行中だ。研究者間の緊密なネットワークを活かし、組織の枠組みを超えた新たな挑戦が始まっている。

患者が多いにもかかわらず臨床研究が進んでいなかった心不全に着目

私が循環器内科の魅力を知ったのは初期研修のときです。重篤な状態で搬送されてくる心臓疾患の急性期の患者さんが治療を受ける事で1日、2日ではっきりと回復し、歩いて帰っていく姿が衝撃的で、循環器内科に進みたいと考えるようになりました。

心不全には市中病院に在籍していた医師4-5年目頃から興味を持ち始めました。私が循環器内科医になった頃は、まだあまり心不全が循環器の中での専門分野の1つとして十分に認識されておらず、高齢化で心不全の患者さんが増え続ける中で、解明されていないことが多い心不全を自身の専門分野として真剣に取り組み、確立したいと強く思うようになりました。しかしその当時日本には心不全の基礎研究を行っていた研究者はいたものの、臨床心不全および臨床研究を専門としている人はいないか、いても非常に少数であったため、日本を出てオランダに4年弱留学をし、心不全という疾患および心不全の臨床研究に関して多くの事を学びました。その後、帰国後に何をどこでやっていくかを考えた時に自分のキャリアの中で特にフォーカスしたいのは心不全の臨床研究であることはわかっていたので、そうであれば大学でしっかり深めていきたいと考えるようになりました。

私が帰国を考え出した頃、順天堂大学は臨床研究において国内の中核となる施設(臨床研究中核病院)を目指していました。その大学の姿勢に共感してここに身を置くことになったのですが、大学の多くの方々の努力で、実際その後数年間でそれが実現し、臨床研究を進めやすい環境が急速に整った事は素晴らしい事だと思っています。

心不全におけるプレシジョン・メディシンを実装する多施設臨床研究が始動

私が特に長く携わってきたのは「多施設臨床研究」です。個人的な人とのつながり、さまざまなネットワークを駆使して、日本の施設間の垣根を越えて研究者が一つになって進める多施設臨床研究をリードすることに重きをおいています。留学前から一貫して研究はこのスタイルなのですが、その中で心不全の患者さんはどのような背景で何が起こるのかを詳細に観察し学びつつ、多施設臨床研究を実行する知識やノウハウを蓄積してきました。

これまでに得た経験を基に、今後はどのような治療が個々の心不全患者さんの未来をどう変えるのかを具体的に検証したいと考えています。現在当グループでは多くの心不全の診断・治療に関する多施設臨床研究が進行していますが、その究極の目標はいわゆる、テーラーメード医療、プレシジョン・メディシンと呼ばれるものです。これを学問の世界で終わらせず、医療現場で実装していくということを私たちの世代で一気に加速させようと考えています。その取り組みの1つがゲノム研究者と我々臨床研究者が国内でチームを組み、30以上の施設で心不全患者のゲノム情報を集め、一人ひとりにより適した治療をどのようにしたら提供できるのかを詳細なレベルで解明するプロジェクトです。これまでの循環器領域の研究では、患者さんを主にベッドサイドで見ている臨床側と、臨床をやっているだけでは見えない事象を研究室で細かく見ている基礎研究者側が協力体制をとるのが難しいところもありました。しかし、このような分野横断的な研究は異なるフィールドの研究者が対等な立場でお互いを尊敬し協力し合うことは必須です。この点、比較的若い世代の研究者はそのあたりの意識が柔軟で、同じ重要なゴールを目指す上で必要ならば他分野の人ともオープンに議論し、すすんで協力し合うという意識が共有されています。このような研究が進めやすい土壌が日本でも整ってきたのはうれしいことです。

現在、心不全分野のゲノム情報を用いたプレシジョン・メディシンは、がんの分野に比べるとかなり遅れています。ただ、これを今後数年間で、保険適用をはじめ実際に臨床現場で使えるところまでもっていくことが私たちの共同研究グループの目標です。世界的にも現時点で心不全分野において遺伝子情報を用いた治療が完全に実装されている国はほとんどありません。この研究によって医療が変われば、別の世界が見えるかもしれない。そう考えると非常にやりがいのある研究です。壮大な話なので今すぐ簡単にできるものではありませんが、手応えは感じています。その一方、遺伝子はその人を語る究極の個人情報のため、取り扱いは非常にナイーブです。そこをしっかり意識しながら実装していくのは相当に困難な道のりであり、いくつもの越えなければならない壁がありますが、情熱と使命感を持った国内の仲間達としっかり長期的に取り組んでいくつもりです。

研究者間の緊密な連携で欧米の研究レベルに匹敵する成果を目指す

今の日本に心不全の分野で世界をリードしていく勢いがあるかというと、残念ながらまだその段階にはありません。海外の臨床研究は、人と物にかける金額が桁違いです。日本では欧米ほど巨額の研究費を投資することが少ないため、同じやり方で海外と同等、もしくはそれ以上のスピードで研究を発展させていくのは難しいと考えています。そこで私たちが大事にしているのが、費用以外で研究を強力に推進する手段、ネットワークです。国内の研究者間で緊密な連携を取って勝負したいと考えています。海外で行われている研究と同じ、もしくはそれ以上のレベルの研究を、日本の研究者は強固な協力によって実現していく。これが私たちの戦い方です。

心不全に関心のある若い医師をつなぎ組織の枠組みを超えた研究を推進

私は若い医師のネットワークを活かして研究していくことに大きな可能性を感じています。その発想のもとになったのが、2013年に40歳以下の仲間と一緒に立ち上げた「U-40心不全ネットワーク」です。もともと日本国内で心不全分野には臨床研究を専門とする人が少なく、心不全に興味を持っている若い研究者を施設の垣根を超えつなぐことを目的に発足しました。このグループでは定期的に教育の機会を設け、循環器における心不全の重要性についての啓発活動も行っており、日本循環器学会および循環器各専門学会のご理解もあり、現在では循環器関連のほとんどの学会で毎年U-40心不全ネットワーク主催のセッションが行われるようになりました

私たちはこのプラットフォームを用い、所属する組織を超えた 急性心不全に関する多施設前向き臨床研究(REALITY-AHF)を行い、多くの論文を発表してきました。例えば、急性心不全の患者さんに対して早期に治療介入することによって院内死亡率が下がるかどうかは前向きのデータがなかったのですが、2017年にこのレジストリからの1本目の論文として発表したところ、現在は日本および海外のガイドライン、ステートメントにも取り入れられ、現時点で世界中の全臨床論文中トップ1%に入る高引用率となっています。U-40心不全ネットワークが単なる若い医師の集まりではなく、しっかり結果を出す研究グループだということを世界にアピールできたのではないでしょうか。

心不全のU-40が軌道に乗ったのを機に、他分野にも同じような取り組みが広がりつつありようです。こうした活動はますます活発になるのではないかと期待しています。

心不全患者の急増で、さらに高い専門性を持つ医師が求められる

超高齢社会を迎えた日本では心不全患者は急激に増加しています。心筋梗塞の治療が浸透しても、最終的には心不全になる人が多く、毎年26万人以上が心不全の増悪が原因で入院しているのが現状です。

心臓という臓器は小さいのに精巧にできていて、異常が起こると全身に影響が及ぶことは明らかです。一方、心臓以外の臓器不全が心臓に与える影響もある事が心臓病をより複雑にしています。現在、心不全研究はドラスティックに変化しており、マルチ-オミックス、人工知能、機械学習といった新規の研究手法も取り入れながら急速に発展しつつあります。病態の解明や治療法の開発は期待も大きく、難しくも非常にやりがいのある分野だと思います。また、心不全の診断および治療は現在ますます複雑化して専門性も高まっており、臨床においてもしっかりとした高度な専門的知識を持った医師が必要とされていることは間違いありません。

当グループは、多くの心不全に関する多施設臨床研究で中心的役割を担っておりますし、今後も多くの多施設臨床研究を行っていきます。心不全の臨床、または臨床研究に興味のある人はぜひ一緒にこの分野の未来を創っていきましょう。

末永 祐哉

末永 祐哉 YUYA MATSUE

2005年鹿児島大医学部卒業後、亀田総合病院初期研修医、循環器内科後期研修医および医員、医長を経て2014年フローニンゲン大学(オランダ)循環器内科心不全リサーチフェロー、2016年日本学術振興会海外特別研究員、2018年より現職。2015年東京医科歯科大学から、また2019年フローニンゲン大学から医学博士号授与。2013年福田記念医療技術振興財団論文賞、2020年日本心臓財団・日本循環器学会 矢崎義雄奨励賞を受賞。
専門は臨床心不全学、臨床研究。

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