順天堂大学医学部循環器内科学講座 准教授
藤本 進一郎SHINICHIRO FUJIMOTO
心血管画像グループでは冠動脈CTによるプラーク解析やFFR算出などのCT分野に主として取り組み、殊に冠動脈CTに関しては国内トップクラスの研究成果を発表してきた。MRIおよび核医学(RI)に関しても着実に研究が進み、新たな診断手法を自分たちの手で開発するべく日々邁進している。
冠動脈プラーク画像のおもしろさに惹かれ心血管画像の分野へ
カテーテル等、循環器内科ならではの治療の手技にも興味はありましたが、それ以上に心臓のポンプ機能のような理論的なところに惹かれたのが大きかったと思います。動脈硬化への関心が高かったこともあり、循環器内科を選びました。
カリフォルニア大学での留学中、最先端の画像解析技術を目の当たりにし、画像解析のおもしろさにはまりました。核医学を使った動物実験を経験した後、動脈硬化における冠動脈プラークの研究に取り組むようになりました。帰国した当時、冠動脈CTが臨床で爆発的に使われ始めた時代だったため、動脈硬化やプラークの冠動脈CTを用いた画像解析を研究テーマにしました。
冠動脈CTによるプラーク解析を主軸とした研究が進む
心臓の画像診断全般のうち、当グループではCT・MRI・心臓核医学の3分野を主流としています。私が順天堂大学に着任したのは2013年ですが、現在では企業や放射線科とのコラボレーションの機会が増え、研究が活発になってきました。
冠動脈CTにおいては、プラーク性状の解析のほか、最近では流体力学を使った冠血流予備比(FFR)の算出を含めた血行動態の評価なども可能になったため、そのあたりをメインに研究を進めています。この分野に関しては、日本国内ではトップレベルであると自負しています。
私自身の研究はCTと核医学がメインですが、国内で実施する施設がまだ限られている、プロトン核磁気共鳴スペクトロスコピー(1H-MR Spectroscopy:MRS)に関する論文を積極的に行っている点も当グループの特徴の1つです。MRSを心臓に応用することで心筋の細かな成分分析が可能となり、特に心筋内中性脂肪を定量することができるようになったことは非常に革新的で、この手法をスポーツ心臓診断に応用した研究成果も発表しています。
また、日本発の新規疾患概念である中性脂肪蓄積心筋血管症に関する研究も進んでいます。この疾患は大阪大学の医師を中心に難病指定申請が進みつつあり、当グループもその研究班の一員に加わっています。MRSと核医学を組み合わせ、診断法や治療効果を確立するべく邁進しています。
低侵襲の画像検査で正確かつ迅速なリスク評価を実現する
企業との共同研究によって、クラスタリング解析技術を用いた新しい冠動脈プラーク解析ソフトを開発し、実用化することができました。
冠動脈CTの形状からFFR(冠血流予備比)を算出する方法に対する研究も進んでいます。現在保険償還されたハートフロー社のFFRCTを導入する施設はまだ国内でも一部ですが、当院では比較的早い段階から導入し、当院主導で多施設での研究を実施しています。また他のアルゴリズムを用いてCTからFFRを解析する方法についても研究を行っており、国内では当院が最も多くの論文を発表しているのではないでしょうか。実用化の目途はまだ立っていませんが、今後も先駆けて研究を推し進めていくつもりです。
私たちの研究は、的確な診断・治療の指針を得る上で有用な研究だと位置づけています。冠動脈の分野では、画像診断はカテーテル検査に比べると侵襲度が低く、ファーストチョイスとしやすいのが利点です。患者の負担が少ない画像検査で冠動脈狭窄に加え、プラーク評価やFFRを知ることができより的確な診断・治療、リスク評価が可能になれば、不要なカテーテル検査や血行再建治療を受けずに済む患者が増え高リスク患者には積極的に、早期治療介入を行うことができます。その結果、今以上に効率良くかつ的確に患者の命を救えるようになれば、医療費の軽減につながり多くのメリットが得られることが期待されます。
進化し続ける画像技術を活かし、リスク評価の精度を高めていく
CTデータから予後やリスクを推定するために人工知能(ディープラーニング)を活用する研究も進めています。また、単純CTにより冠動脈石灰化スコアを見る検査についてもさらに精度を上げていく研究を計画しています。更には、現在の冠動脈CTでは冠動脈プラークの炎症などの分子イメージングを評価できないため、それを実現する新たな造影剤開発に向けて動物実験も始まっています。
最終的にはこうした技術を総合し、1回の心臓CT撮像からプラークや血行動態、心筋血流などを包括的に評価し、高精度な不安定プラーク同定や心血管イベントリスク評価を実現できればと考えています。
他グループ、他科との共同研究にも精力的に取り組む
症例数が多いという私立大学の利点に加えて、各分野のエキスパートがそろった中で連携する土壌が整っているのは当大学の特徴です。例えば、同じ循環器内科の冠動脈疾患・SHDグループは侵襲的イメージングの専門家ですが、私たちはCTをはじめとする非侵襲的イメージングの専門家です。このコラボレーションにより、様々な視点から何が見えるかを知ることができます。
放射線科との連携も非常にスムーズです。本来、画像診断は放射線科のテリトリーでもありますが、実臨床では循環器内科が画像を活用しています。つまり、両者それぞれがいかに優秀でも、協働しなければ正解にたどりつけない恐れがあります。その点、当大学ではバランスよく連携が取れていて、互いの知識を合わせて強みを活かし弱みを補うという相互作用が発揮できています。例えば画像への人工知能(ディープラーニング)活用、心筋Perfusion CTを用いた心筋虚血評価や心筋血流量評価など、放射線科の医師との共同臨床研究は今後も積極的に行っていきます。
若い研究者も巻き込み、新たな画像診断を発見する夢を託したい
心血管画像は、目に見える形で生体や病態について知ることができます。生体分子情報をはじめ、画像からさまざまな情報が得られる時代となり、今後はさらにおもしろみが増していく分野ではないでしょうか。
自分たちの手で新たな診断手法を発見して世界に広めることができたら、それは素晴らしいことです。夢のような話かもしれませんが、今後も先駆けとなる研究を続け、若い世代の研究者と一緒に心血管画像分野を盛り上げていきたいと思っています。
藤本 進一郎SHINICHIRO FUJIMOTO
1996年筑波大学医学専門学群卒業。2005年カリフォルニア大学アーバイン校留学(リサーチフェロー。Dr. Narulaに師事)、2010年高瀬クリニック循環器科、2013年より現職。
専門は循環器画像診断学(CT、MRI、核医学)。