Aging Control老化制御

Aging Control
順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科教授

順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科教授

南野 徹TOHRU MINAMINO

老化制御による次世代の循環器疾患治療を創出する

循環器疾患の多くは加齢関連疾患であり、循環器疾患を解決する一番の方法が老化研究である。
老化制御グループではこの考えに端を発し、老化の分子メカニズムを解明することを使命としている。
老化制御による新たな治療法を研究・開発することで、アンメットニーズに応える挑戦が続く。

評価されない不遇の時期を経て、老化研究が大きく注目される時代へ

私が老化について関心を持つ契機となったのは、偶然担当した、家族性の拡張型心筋症患者でした。この病気は、現在では遺伝との関連が明らかになっていますが、当時はそこがまだ曖昧だったこともあり、遺伝子への興味が湧いて研究を始めたのです。

東京大学での研究生時代は与えられたテーマに終始していたこともあり、自分のライフワークと言えるものを見つけたいと思うようになりました。その矢先に出会ったのがテロメアに関する論文で、「これは非常に面白い」と感じたわけです。循環器疾患は加齢に伴って増えていくため、それなら老化と循環器をテーマに研究していこうと考えました。

しかし、心臓や血管の老化について分子生物学的に研究するというアプローチは、当時は非常に少ない状況でした。ハーバード大学留学時、それなりに結果が出て学会で発表しようとしても通らなかったり、発表しても注目されなかったりと、厳しい状況が続きました。帰国してからも研究をやめようかと思ったことが何度もありました。その後、留学中の研究が論文化されることになったのを機に、心血管系の老化の研究で一定の成果をあげることができるようになりました。世間的にも老化に注目が集まり始めた頃だったので、ちょうどトレンドに乗ったことも幸いしたのだと思います。

細胞老化仮説に基づき、老化細胞を除去する治療の研究・開発を進める

病的な老化がなぜ進むのかを研究するのが私たちの使命で、その要素の一つが心疾患だったり動脈硬化だったりします。私の研究はテロメアから始まり、細胞1個1個が老化するという「細胞老化仮説」に基づいて進めてきました。例えば、老化細胞が蓄積するのが血管であれば動脈硬化、心臓であれば心不全、あるいはお腹の脂肪であれば糖尿病を起こします。一方、テロメアが短縮すると、老化分子であるp53が増加して細胞の老化が進みます。そこで逆にp53を抑え込むような遺伝子操作を加えれば、動脈硬化や心不全、糖尿病などが抑制できるのではないか。この20年間はこうした現象について証明してきました(図)。

細胞老化仮説に基づき、老化細胞を除去する治療の研究・開発を進める

現在、力を入れて取り組んでいるのは老化細胞除去薬の研究・開発です。テロメアが短縮したり、酸化ストレスがかかると、染色体に傷が入ってDNAダメージが生じ、細胞に異常が起きてがんが発生しやすくなります。それを防ぐため、私たちの体にはその細胞を老化させる仕組みが備わっています。老化細胞は分裂できないので、がん細胞も増殖しにくくなるわけです。しかし、老化細胞が過剰になると、今度は老化細胞から分泌される炎症分子が原因となり、慢性炎症が起こって病的な老化が進むというジレンマが出てきます。現在開発を進めている老化細胞除去薬では、がんが増殖することなく、いわゆる病的な老化形質、動脈硬化や糖尿病などが可逆的に改善するという実験結果が得られています。超高齢マウスの病的な老化も改善しうることもわかってきました。すでに人間に投与できる段階までこぎつけています。

私たちは老化細胞に特異的に発現する老化抗原を複数見つけていて、その抗原を標的として老化細胞を除去する、抗体医薬、ワクチンの開発も行っています(図)。2022年、2023年ころにはファースト・イン・ヒューマン試験を行う想定で進めており、2021年中にはこの研究は論文化される予定です。

最近では、製菓会社との共同研究による老化細胞除去効果のある食品の開発も始まりました。今後もさまざまな角度から老化制御研究を進めていくつもりです。

老化細胞除去ワクチンにより病的な老化形質が改善する

循環器だけにとどまらず、あらゆる加齢関連疾患に応用可能な治療法を探る

ほとんどの加齢関連疾患には老化細胞の蓄積が関与します。そう考えると私たちの開発している治療は、アルツハイマー病、サルコペニア、糖尿病や動脈硬化、心不全、変形性関節症など、かなり広範囲に効果が認められるのではないかと考えています。しかし、蓄積した老化細胞が全部同じかというとそうではなく、少しずつ性質が異なります。疾患によって老化細胞除去薬を少し変えるなど、今後は個別化医療も視野に入れて考える必要性も出てくるでしょう。

なお、老化に対するインターベンションに関するガイドラインはまだありません。そこで私が副理事長をしている日本抗加齢医学会では、2020年の総会をキックオフとして、数年にかけてガイドラインやステートメントを策定する方向で進めています。

アンチエイジングの領域では、非科学的な情報が溢れている割に、どれが真実なのか曖昧になっているところもあります。まずは科学的エビデンスをサーチして、エビデンスがしっかり確立されたものだけを推奨する形を取る予定です。さらなるインターベンションのツールについては、当グループでも開発していけたらと思っています。

臨床・研究の両方を大切にしながら、
日本の老化制御研究を牽引していきたい

高血圧しかり、循環器内科で扱う疾患の大部分は加齢関連疾患であるため、循環器疾患を解決するには老化を研究するのが一番の近道です。しかし、日本は世界有数の高齢国として老化研究のメッカになるべき立ち位置にあるものの、欧米に比べると研究が少々遅れているのが現状です。なかなか厳しい状況ではありますが、私たちは日本の老化研究をかなり牽引しているという自負があります。

研究を深めるにあたっては、臨床と研究の両方が大切です。どちらも余裕をもってこなせるというわけではありませんが、実際は両方に関わるほうが面白いですし、新しい発見もあります。臨床に携わっている人は基礎研究だけ行う人とは少し違う視点を持つことができるので、研究者として両方の視点を持っておきたいのです。

ただ、全員が研究にエフォートを割けるようになるには、医局内の仕組みを変え、病棟もきちんと管理する必要があります。若い医師は、ある時期は研究に集中し、また別の時期には臨床で技術を磨くなど、好機を逃さず役割を分担できるよう仕組みを整備していくつもりです。

ライフワークとなるテーマと出合えば、挫折しながら成長もできる

最近、若手の研究者を見ていて感じるのは、自分の研究について明確なゴールがイメージできていない人や、「これくらいでいいだろう」と何となく流す人がいることです。情熱がなければ見えてこないこともあるので、時には貪欲に何かに取り組む経験もあっていいのではないかと思います。

その中でたくさんの挫折を経験するのも、ある程度は仕方のないことです。私たちは挫折を繰り返すたびに鈍感になるもので、後で振り返ってみれば大した挫折ではなかったと思うようになり、結局はやりたいことを続ける意思を持てるようになるのではないでしょうか。私もさまざまな局面で挫折を経験しましたが、その度に本質が垣間見えたり、自分が進むべき道が見えてきたり。いま思えば悪い経験ではなかったのだと感じます。

私が皆さんにお勧めしたいのは、そんなふうに挫折も繰り返しつつ、人生を振り返ったときに「これをやった」と自信を持って言えるライフワークを見つけることです。20代、30代のうちに、何かしら社会に貢献できること、足跡を残せることを見つけてほしいと思っています。

南野 徹 TOHRU MINAMINO

南野 徹TOHRU MINAMINO

2012年より新潟大学循環器内科教授、副病院長を経て、2020年より現職。
老化や心血 管再生を研究領域としてもち、Nature、Nature Medicine、Cell、Lancetなどを含む High Impact Journalにその成果を発表し、日本循環器学会賞やベルツ賞、日本医師 会研究奨励賞などを受賞している。内科・循環器系の国内外の学会や老化関連の国内 外の学会の理事や役員として活動しており、文部科学省学術調査官や日本学術振興会 学術システム研究センター研究員、AMED-CREST/PRIMEの領域アドバイザーなども兼任 することで、日本の科学研究システムにも貢献をしている。

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