順天堂大学医学部循環器内科学講座 特任准教授
宮﨑 彩記子SAKIKO MIYAZAKI
心臓超音波検査(心エコー検査)は非侵襲で繰り返し行えるということから、心臓病の診断に最もよく使われる検査の一つ。3Dでの動画の観察も一般的となり、画像診断技術として、ますます重要視されている。
診断装置の目覚ましい発展の一方、専門とする医師が少ないのが現状だ。超音波検査の可能性に魅せられた宮﨑彩記子医師は、さまざまな診療科と協力しながら、複雑な心疾患や全身疾患に伴う心血管合併症の早期発見、診断に努めている。
心臓超音波技術への関心が研究への強い思いにつながった
私は医学部を卒業後、広尾にある日本赤十字社医療センターで初期研修を行いました。研修の時にはまだ循環器内科に進むことは決めていませんでしたが、救急車で運ばれてくる死に直面していた患者さんたちが笑顔で退院していくというシーンを繰り返し見ることで、循環器診療に対して非常にやりがいを感じました。長い時間をかけて治療する疾患の面白さもあるのですが、治療効果を日々実感しながら診療ができるというところに大変魅力を感じました。当時の上司に循環器が向いていると勧められ、循環器内科を選びました。
順天堂医院の循環器内科に入ってから、三次救急も行っている順天堂大学附属静岡病院に赴任し、臨床経験を積みました。そのころから心エコー検査には関心がありましたが、当時の順天堂には心エコー専門の医師はいませんでした。その後、国内の心エコーの分野において指導的な立場にいらっしゃる大門雅夫先生(現在東京大学)が心臓超音波室の責任者として着任されることになりました。心エコーを勉強するまたとないチャンスだと思い、大学院に進学し大門先生の下で心臓超音波の研究を行うことを決めました。
私が心エコーを用いた超音波の研究を始めてから10年以上が経ちました。当初は心臓弁膜症を中心に勉強し、学位論文も大動脈弁狭窄症ついての研究をしました。その後のイタリア留学で、大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療時の心エコー検査の役割を研究し、論文化しました。ただ、日本に帰ってきてからは、興味の対象、研究の対象としては弁膜症だけではなく、様々な心筋症や、先天性心疾患、心毒性のある化学療法を行うがん患者さんまで広げています。
心エコーによるがん治療に伴う心機能障害の早期診断の可能性に期待
循環器内科ではがんの治療をすることはほとんどありませんが、乳がんや血液腫瘍、肺がん等の患者さんで抗がん剤の使用時に心不全を起こすケースが少なくありません。がんがよくなったのに心臓が悪くなってしまった、ということを避けるためにも早期発見と適切な治療が求められています。がん治療による心血管合併症早期診断の研究は、私が現在、最も熱意を持って取り組んでいることの一つです。
国際的な多施設大規模研究に参加し日常臨床につなげていきたい
直近では乳がんのがん治療薬を使った患者の心毒性の早期発見、早期治療にスペックルトラッキング法を用いた心エコーによる心機能評価法が有用かどうかの国際的な共同研究に参加しています(SUCCOUR trial)。先日、JACC誌(循環器領域の主要な学術雑誌)に、この研究の中間報告がアクセプトされました。このような国際的に注目される大規模研究は一施設でできることではないので、他施設との共同研究に積極的に参加して、日常臨床に影響を与えるようなことに関与していきたいという強い思いがあります。
このような研究結果がガイドラインに反映され、標準化された形をフォローする施設が増えてくると、がんに伴う心血管合併症の診療レベルが、個々の施設ではなく全体として底上げできると思います。
ここ数年、心エコーの国際学会で日本人の研究者が賞をとることが非常に多くなってきています。日本からの研究発表が注目されていることを実感しています。
検査技師や他科の医師とのコラボで難関を乗り越える面白さ
すべての科学研究、医学研究にはスタンダードな手法があって、心エコーの研究もそれに沿って行います。けれども心エコーの研究は、検査技師が超音波機器で撮影した画像を使用するため、超音波技師の技術によっても結果が左右されます。研究者のアイデアはもちろんですが、信頼できる結果を出すためには、その研究に参加する施設の技師の安定的で高いクオリティが担保されているということが重要です。
外科手術も外科医の腕で左右されるように、心エコーもやはり再現性の問題を考慮しながら、どの病院でも同じ方向性に行き着くような研究が求められるので、そこが難しさでもあり、面白さだと思います。
心エコーの診断で一番難しいのが先天性心疾患です。しかも、手術した後もさらに複雑です。月に1回心臓外科の医師、循環器内科の医師、小児循環器の医師、エコーの技師が集まって症例の検討会を行なっています。
さらに、膠原病に伴う肺高血圧や血液疾患に伴う心アミロイドーシスのように、循環器以外の診療科とのコラボレーションの機会が多く、心エコーの研究テーマは無限にあります。脳神経内科ともコラボレーションし、最近は塞栓源不明の脳梗塞に対する診断や治療も注目されており、経食道心エコーを用いた検査を積極的に行っています。
当院の生理機能検査室には約10台の各メーカー最新の超音波機器が揃っていて、トレーニングをされた技師とのコラボレーションで検査を行なっています。順天堂医院の超音波検査の症例件数は圧倒的に多いので、幅広く深く技術を習得し、かつ研究もできる点は誇りに思っています。
最後の診断は医師の経験、高い専門性が大きな武器となる
超音波画像診断装置は、現在、国内外の複数のメーカーによって、それぞれに特徴のある3Dや、画像解析ソフトが開発されています。3Dが当たり前のように使える技術となり、最近は外科の先生が手術中に見る術野と遜色ないぐらい画質のクオリティも上がっています。
COVID-19の流行で、患者さんと長時間接触する検査は避けられがちです。今後は短時間の検査で、画像の解析は全て自動化される時代が来るかもしれません。3Dや自動化、AIを使った技術もまだまだこれから大きく発展する可能性があり、未来につながる伸びしろが多く残っています。
自動化されても、最後の診断は医師の経験が必要です。心エコーを専門とする医師は全国的にみてもまだ少なく、今後、エコーの専門医の存在はより重要になってくると思います。
宮﨑 彩記子SAKIKO MIYAZAKI
2000年 順天堂大学医学部卒業。2011年 順天堂大学大学院医学博士。2012年 東京大学公衆衛生学修士。
専門は循環器画像診断学(日本超音波医学会認定専門医)